施設訪問:英国の老人ホーム
2017年2月20日、イギリス旅行に行った際に、ロンドン近郊のサットンという街にある高齢者施設を訪問しました。
イギリスはEUのドイツやフランス同様、移民や難民を多く受け入れ、高齢者介護は移民など外国にルーツを持つ人たちの労働力によって成り立っています。
日本の介護でも外国人労働者を受け入れなければ、成り立たなくなると言われています。その時に実際に文化背景の違う外国人が介護の仕事に関わるということがどういうことなのか?当たり前のように移民の方が働いている国で自分の目で確かめたいと思ったことが今回の訪問の目的です。
もちろんなんのコネクションもなかったのですがロコタビという現地在住の日本人と旅行者をマッチングしてくれるサイトで現地で作業療法士をされている方と出会うことができました。
サイト上でのやり取りを経て、ロンドン南部郊外にあるウェルズリーロッジ という認知症ケア専門の老人ホームを案内してもらうことになりました。施設は大きな住宅を改装したような建物で教会の所有物だそうです。マネージャー(施設長)のカレンさんは上階に居住していました。
ロンドンはさまざまな人種が共存する大都市でしたが22名の入居されてる方は全員、白人の方々でした。
そのことについてカレンさんに訪ねると入居者本人の希望や家族の意向等で人種や宗教等が違うところは敬遠されるので、結果として同じコミュニティーに属する人たちで棲み分けられていくようです。
一方、職員の方はアフリカ系やアジア系の方もいて多様性に富んでいました。
マネージャー(施設長)のカレンさんからは職員の採用や教育を中心に話をお聞きしました。
「外国人や移民の方であっても一番大切なのは、文化を知ろう・学ぼうという姿勢。もし私が日本で働くとしたら日本の文化や習慣を学ばなければいけないし、学びたいと思います。ですからその姿勢がない人は採用しません。採用後も気づいた点は細かく指摘し、直してもらいます。例えばアフリカ系の人は、悪気なく利用者にぶっきら棒に指示をしてしまうところがあるのですが、そう言った点は繰り返し、話して理解してもらうようにしています」
文化を学ぶ姿勢を強調されていて、その姿勢は自分たちの世代と違う文化、高齢の方の文化を学ぼうという姿勢にもつながるのではないかと感じました。
「入職後の研修は2週間のOJTで1週目は1対1で介護の様子を見てもらい、2週目は実際に介護をしてもらいます。介護技術に関しては全員が同じ技術で対応できるようにインターネット上の動画で学習してもらっています。あなたの国で行われていないようであればぜひ導入したほうがいいです。これから介護を志す人にとっても満足感が得られるために必要なシステムだと思います」
「ここでは正式採用まで3ヶ月の試用期間を設けています。普段は私も皆と同じユニフォームを着て現場の中に一緒に入ります。そしてケアをしながら他の職員のケアを観察しています。身だしなみも含め、必要に応じて細かく注意しているので「口うるさい人」と思われていると思います」採用については面接だけではなかなかわからないということを強調していました。
「2ヶ月に一度、全職員を対象にしたスタッフミーティングを行っています。ミーティングでは主にセーフガード(安全管理)や衛生管理などについて1~2時間かけて行っています。またスタッフとの個人面談も2ヶ月に1度行っています。1日5名をノルマとして行っていますが、大体1週間くらいかかります」
訪問時も勤務前の職員にもアラーム対応を指示したりしていました。
ランチタイムであっても必要があれば動いてもらうそうです。あくまで利用者を中心に考えていることが伝わってきました。
下記の写真の庭はカレンさんが赴任した3年前は庭として使われていなかったそうです。赴任後、手を入れて外出できるようにしたそうです。
カレンさんは近い将来に実現したい夢についても教えてくれました。
「将来はこの庭にパブを作って利用者がいつでも飲み物が飲めるような場所にしたい。
そこでは利用者がオリジナルの紙幣を片手に、昔と同じようにパブで飲み物を飲み、好きなように時間を過ごす…そんな時間を作りたいのです」
そう語るカレンさんの表情が清々しく、とても印象に残りました。
日本にいる時に海外の介護について調べていた時に英国ではいわゆる「抱き上げ介護」は禁止されていて移乗は全てリフトで行われていると聞き、ほんまかいなと思ってたのですが、カレンさんに尋ねるとあたりまえのように「抱き上げ介護」などとんでもない。昔は英国でもそのような介護を行なっていたが、我々は20年かけてそこから脱却した。日本では今でも「抱き上げ介護」をしているのかと言って、早く脱却すべきだと当然のように言っていました。この話は時々、思い出すけれど、今でも僕は日常的に「抱き上げ介護」をしているし、さまざまな施設見学に行ってみたが「抱き上げ介護」からの脱却に本格的にコミットしている施設もまだ見たことがない…
自分の勤務するグループホームと比較し、共通して私が感じたのは施設長の「熱量」によって運営されているということでした。それはもちろん、私が現在の施設に勤務し続ける理由にもなっていますし、今回のイギリス訪問で感銘を受けた理由でもあります。
ただ同時に「替えがききにくい」という意味で「問題点」でもあると感じています。今、現在、我々が直面しつうある超高齢化社会あるいは障害者福祉もふくめた高福祉社会では「個人の情熱や熱量」によってしか維持されない「仕組み」ではとてもカバーしきれないのではないかと感じるからです。
社会を構成する人たちの「ほんの少しの善意やメリット」で無理なく維持される「仕組み」がこれからの私たちには求められていると思います。
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